工作機械用ボールねじの温度上昇と対策
工作機械の位置決め精度を左右する大きな要因として、
機械の発熱による熱変形が挙げられる。
ボールねじの温度上昇と精度への影響
高能率化・省力化などのため近年めざましい進歩と普及を遂げているNC工作機械においては、熱変形がそのまま精度低下につながるため、この問題が大きくクローズアップされ、その対策が急務となっている。NC駆動機構の一要素としての精密ボールねじの温度上昇に大きな関心が寄せられるゆえんである。
一般に、工作機械の熱変形による位置決め精度の変化は、ボールねじの摩擦熱による伸びという単純なものではなく、作動油の温度上昇、モータ・歯車などの発熱、潤滑剤の温度上昇、その他機械の運転による発熱などが複雑に影響し合った結果として現われる。したがって、たとえボールねじの温度上昇を抑えることができても、案内面、ベッドなどが変形しているのでは意味がなく、機械全体としての発熱対策を考慮する必要がある。
図1に、工作機械に入力された電気的エネルギーが、最終的に熱エネルギーに変換された姿の一例を示す。条件によって程度は異なるが、送り系に携わるボールねじの発熱量は全体から見れば比較的少ない。
図2の実測例では、ボールねじの回転速度が10〜30rpmと小さいため、ボールねじ自身の発熱は問題とならず、駆動モータなど主軸台側の熱源によって、ボールねじの温度が上昇している。
しかしながら、NC工作機械の位置決め精度に直接関係するボールねじの発熱は、依然として重要な問題であり、以下に、ボールねじ単体としての温度上昇対策について述べる。
ボールねじの温度上昇・熱変形対策としては、
- 1) 発熱量を抑制すること
- 2) 条件によって、温度上昇値・熱変形量を予測あるいは検知して対策を採ること
- 3) 冷却によって温度上昇を抑えること
- 4) ボールねじの温度を一定値にコントロールすること
などの方法が考えられる。
それぞれが対策として有効であるが、実際の機械では、機械の特長、スペースやコストの制約があり、また要求精度も異なるので、適当な方法を選択し、実施している。これらの個々の対策について、実験結果を参照しながら説明する。
1. 発熱量の抑制
ボールねじの摩擦損失がそのまま発熱量に結びつくと考えることができるので、摩擦を小さくすることができれば発熱量もそれだけ小さくなる。したがって、摩擦特性が、発熱対策を考える上で重要な意味を持つのは当然のことであろう。
たとえば、ボールねじに予圧を与える場合、通常、予圧量は最大負荷荷重の1/3程度であるが、この荷重の推定に誤りがあると、必要以上に大きな予圧をかけることになる。また剛性を重視するあまり、予圧量を大きくすると、ボールねじの摩擦が大きくなる。したがって、最大負荷荷重をできるだけ正確に知って、適正な予圧量を決めることが、この点からも重要である。
また、図2に示した例のように、ボールねじ自身の発熱量が比較的小さい場合には、他の熱源からの熱伝達を防ぐ意味で、位置関係も含めて、ボールねじの取付け方法を考慮すべきであろう。
2. 温度上昇値・熱変形量の推定
ボールねじの温度上昇値を推定する方法としては、滑りねじに対する理論式を応用することができる。

ここに、
- θs: 温度上昇値
- Ft: 接線方向摩擦抵抗値
- V: 接線方向速度
- J: 熱の仕事当量
- α: ねじ表面の熱伝達率
- A: 放熱面積
- CM: ねじ軸の熱容量
- t: 時間
なお、式(1)の右辺{ }内第2項は t を大きくとることにより省略できて、そのときのθsが温度上昇飽和値となる。
また、αは、ねじ軸回転による空気の流れを考慮して、低速域を除いては、次の実験式で計算が可能である。

ここに、
- D: ねじ軸外径
- λ: (tw + t0)/ 2での空気の熱伝導率
- ν: (tw + t0)/ 2での空気の動粘性係数
- C、n: (V D/ν)で決まる係数
- tw: ねじ軸外径の温度
- t0: 空気の温度
ただし、Vが小さい低速域においては、αはほぼ一定値をとることが実験的に確認されている。
式(1)より、温度上昇飽和値はVに比例しαに反比例する。また、式(2)においてαは、通常n ≒ 0.5であるので、Vのほぼ平方根に比例している。結局、温度上昇飽和値は、低速域では速度に比例して増大するが、ある速度以上になると、速度のほぼ平方根に比例することになり、過去の実験結果も大体これに一致した傾向にある。実験結果の一例を図3に示す。

ボールねじ材として使用されるSCM21およびSCM5の線膨張係数は、熱処理を施したもので、12.0×10-6であることが実測によって知られているので、温度上昇値がわかれば、それによる熱変形量を計算することができる。

図4は、ねじ軸の温度上昇測定値と線膨張係数とにより計算した変形量と、実測によるねじ軸の変形量とを比較したものであり、両者はよく一致している。
なお、図3、図4のデータは、連続運転による温度上昇または熱膨張の飽和値であり、実際の機械では早送りと切削送りとを交互に行う間欠的運動が多い。一般に、早送りで使われる時間は10%前後と短いので、温度上昇値、熱変形量はこれらのデータよりもかなり小さい値となるはずである。

図5において、曲線1は実際の機械に近い速度条件(一方向を4.8m/min、逆方向を0.48m/min)でナットを往復運動させたときの、ボールねじの熱変形線図である。運転速度以外の条件は図4の場合と同一であるので伸び量が大幅に小さくなっていることがわかる。
3. 温度上昇したときの熱変形対策
ボールねじの使用条件から、温度上昇によるねじ軸の変形量が推定できれば、それに応じて、リードをあらかじめマイナスに加工したボールねじを使用する方法もある。この場合、工作機械の慣し運転時間を短縮するために、ボールねじを加工時の回転条件よりも高速で運転し、ある最適な時間で加工時の回転条件に切換えることにより、早期に安定状態をつくり出すことができる。
図5の曲線2は、ウォーミングアップとして約4分間両方向とも9.6m/minで運転し、その後曲線(1)と同じ速度条件にした場合のねじ軸の熱変形線図であり、曲線(1)に比べて、安定状態に達するまでの時間が大幅に短縮されている。
しかしながら、単にリードをマイナスに加工する方法では、ねじ軸変形量の推定値と実際の伸び量との間にずれがあったり、運転条件に変化がある場合、それに対応することはできない。
リードをあらかじめマイナスに加工したねじ軸に、予張力をかけて機械に組込んで、ねじ軸の熱膨張を内部応力の変化で吸収することにより、温度上昇による伸びを防ぐ方法も一部で採られており、位置決め精度が大幅に向上した実験結果も得られている。条件次第ではこの方法も有効であろうが、ねじ軸両端の支持方法、支持軸受の摩擦・発熱に対する配慮が必要とされよう。
以上のような方法で、温度上昇が起こっても、それによる影響を小さく抑えることが、ある程度可能であるといえよう。
4. 冷却または温度コントロール
温度上昇を抑制する方法として、ボールねじを直接冷却する方法が考えられる。図6に、予圧用間座にあけた穴よりナット・ねじ軸間にオイルミストを吹きつけた場合の温度上昇と、グリース潤滑のボールねじに予圧用間座の穴より空気だけを吹きつけた場合の温度上昇との実験結果の一例を示す。

両方の場合とも、冷却効果の大きさは、空気の流量に比例する傾向にある。たとえば、空気の流量120 /minでは、グリース潤滑で冷却を施さない(空気の流量ゼロ)場合に比べて、オイルミスト潤滑の場合で1/3以下、グリース潤滑で空気を吹きつけた場合には1/2以下の温度上昇になり、冷却効果がかなり大きいことを示している。なお、油量の少ないオイルミスト潤滑では、条件によって十分な潤滑が期待できず、摩耗などのおそれもあるので、実用に適するかどうかは疑問である。また、ねじ軸を中空に作り、中空穴に空気を流して冷却した実験結果を図7に示す。

この場合も、図6の場合と似た冷却効果を示し、空気の流量を増すことによって大きな効果が期待できる。
一方、中空穴に水を流した(約3 /min)実験では、温度上昇は見られず、ねじ軸は室温よりも水温に近い温度になっている。
したがって、単に冷却という観点からだけでなく、温度コントロールした液体を中空軸やナット外周に流すことによって、ボールねじの温度を一定に保つことも可能であろう。
NSK BEARING JOURNAL
No.637 ボールねじの摩擦と温度上昇 より抜粋
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